【小規模宅地特例】連続して相続が発生した際の貸付事業用宅地等の改正の影響

こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。

平成30年度税制改正において、小規模宅地等の特例の1つである貸付事業用宅地の適用要件が厳格化されています。

具体的な厳格化の意味合いとしては、貸付事業用宅地の要件として「相続開始の日まで3年を超えて引き続き」貸付事業を行っている要件が課されました。

この3年について質問を受けたので検討してみます。

【貸付事業用宅地に関する改正の詳細はこちらをご覧ください】

こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。 ご存知の方も沢山いらっしゃると思いますが、平成30年の税制にて小規模宅地特例の...

改正の内容

前回の記事と内容が重複しますが、改正内容のおさらいです。

貸付事業用宅地等の範囲から、「平成30年4月1日以後の相続または遺贈により取得した宅地等については、その相続の開始前3年以内に新たに貸付事業のように供された宅地(3年以内貸付宅地等)」が除かれることになりました。

参考条文:租税特別措置法69の4 ③四

四 貸付事業用宅地等 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものに限る。以下この号において「貸付事業」という。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで3年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
〔令40の2⑥⑦⑮〕

イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。

実務上の疑問点

どうやら今回の改正を踏まえると、相続開始前までに、3年間は貸付事業を行っている必要があるようです。

それでは、父が貸付事業を開始した2年後に父に相続が発生。その後、母が当該貸付事業を引継いだが2年後に母に相続が発生し、娘が貸付事業を引継いだ場合は、母の貸付事業期間は純粋に2年なのか、それとも父(2年)と母(2年)を通算して4年になるのでしょうか。

回答:通算できる場合と通算できない場合がある

貸付事業が事業的規模か否かが重要な分かれ目です。

疑問のように相続が発生した場合に貸付期間の通算が可能かの判定は、貸付事業が事業的規模で行われている(特定貸付事業)か、事業と称するに至らない不動産の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものである「準事業」なのかによって異なります。

特定貸付事業であれば、通算が可能です。特定貸付事業に該当すれば、相続開始の日まで3年という要件を満たす(父2年+母2年の通算4年)ことになります。

参考条文:租税特別措置法施行令第40条の2

17 特定貸付事業を行つていた被相続人(以下この項において「第一次相続人」という。)が、当該第一次相続人の死亡に係る相続開始前3年以内に相続又は遺贈(以下この項において「第一次相続」という。)により当該第一次相続に係る被相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していた場合には、当該第一次相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等に係る法第69条の4第3項第4号の規定の適用については、当該第一次相続に係る被相続人が当該第一次相続があつた日まで引き続き特定貸付事業を行つていた期間は、当該第一次相続人が特定貸付事業を行つていた期間に該当するものとみなす。

準事業とは?

貸付事業とは、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業のことを指します。

この貸付事業のうち、準事業以外のものを、特定貸付事業と呼んでいます。

となると、準事業とはどのようなものになるのかという疑問が生じるのではないでしょうか。

租税特別措置法第40条の2において、

「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの」

を準事業というとされています。

事業と称するに至らない不動産の貸付等を準事業と考えるようです。事業的規模であれば準事業には該当しないと考えることができそうです。

事業的規模とはどのような規模になるのか、準事業との線引きが実務上重要になりそうです。

特定貸付事業の意義

この点、特定貸付事業の意義が、措置法通達において記載されています。

通達上を簡単にまとめると以下の通りです。

・社会通念上事業と称するに至る程度の規模で貸付事業が行われているか

・所得税法上、不動産所得を生ずべき事業としてとして行われているのであれば事業的規模

・不動産の貸付が不動産所得を生ずべき事業以外のものとして行われているのであれば準事業

つまり、不動産所得の事業的規模の判定通りで判定することになります。

国税庁のHPにも建物の貸付に関する事業的規模の判定は以下のように取り扱う旨が掲載されています。不動産をお持ちの方には馴染み深い、5棟10室基準と言われるものです。

建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。

(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

出典:国税庁HP
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm

(特定貸付事業の意義) (新設)
69の4―24の4 措置法令第40条の2第16項に規定する特定貸付事業(以下69の4―24の8までにおいて「特定貸付事業」という。)は、貸付事業のうち準事業以外のものをいうのであるが、被相続人等の貸付事業が準事業以外の貸付事業に当たるかどうかについては、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で当該貸付事業が行われていたかどうかにより判定することに留意する。

なお、この判定に当たっては、次によることに留意する。
⑴ 被相続人等が行う貸付事業が不動産の貸付けである場合において、当該不動産の貸付けが不動産所得(所得税法(昭和40年法律第33号)第26条第1項((不動産所得))に規定する不動産所得をいう。以下⑴において同じ。)を生ずべき事業として行われているときは、当該貸付事業は特定貸付事業に該当し、当該不動産の貸付けが不動産所得を生ずべき事業以外のものとして行われているときは、当該貸付事業は準事業に該当すること。

⑵ 被相続人等が行う貸付事業の対象が駐車場又は自転車駐車場であって自己の責任において他
人の物を保管するものである場合において、当該貸付事業が同法第27条第1項((事業所得))に規定する事業所得を生ずべきものとして行われているときは、当該貸付事業は特定貸付事業に該当し、当該貸付事業が同法第35条第1項((雑所得))に規定する雑所得を生ずべきものとして行われているときは、当該貸付事業は準事業に該当すること。

(注) ⑴又は⑵の判定を行う場合においては、昭和45年7月1日付直審(所)30「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)26―9((建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定))及び27―2((有料駐車場等の所得))の取扱いがあることに留意する。

まとめ

税制改正によって小規模宅地特例の適用要件が厳格化されました。

相続対策は計画性を持って行う必要が今まで以上に重要だ、と肌で感じております。

相続対策も事業承継対策も、自分が元気な時は進んで対策を行うことは気分が乗らないと思います。気分が乗らない中、相続対策の第1歩を踏み出せるか否かは相続税額だけでなく、ご自身の意思を反映した相続財産の配分、ひいては争族争いを避けることにもつながります。

少しずつでも対策を進めてみましょう。

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愛知県名古屋市を中心に活動している池下・覚王山の公認会計士・税理士澤田憲幸です。
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はじめまして。愛知県名古屋市池下の公認会計士・税理士澤田憲幸です。

起業支援、事業承継対策、中小企業のM&Aや組織再編を得意としています。

会社設立直後で税金・会計・財務まで手が回らない経営者の方、今の顧問税理士にご不満のある方、事業承継対策に悩んでいる方、M&Aの話を金融機関等から提案されたが得な話か損する話か判断ができない方は一度ご相談ください。

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