こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
所得税の確定申告の真っ最中です。2017年度は仮想通貨元年と言われていることもあり、仮想通貨の確定申告のご依頼を多数いただいております。
仮想通貨の含み益を「億円」単位で保有している、「億り人」からいただく質問が、「日本で納税義務があるのは誰?→どうすれば日本の所得税が課されない?」です。
これについて考えてみます(今回は個人に限ります)。
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前置き
日本国内で生活している個人であれば、国籍に関わらず日本の所得税法の適用を受けます。反対に、日本で生活していない、日本人であれば、原則は日本の所得税法の適用を受けません。
しかし、このようにざっくりと日本で生活しているか否かだけで、所得税法の適用範囲を定めてしまうと、日本との繋がりが強いにも関わらず所得税を課すことができなくなってしまいます。
そこで、所得税法は日本国内で生活していない場合であっても、日本との繋がり(人・モノ。取引)で納税義務の範囲を定め、所得の源泉が日本であれば所得税を課すことにしています。
納税義務者は大きく3つに分けられる
日本の所得税法上、納税義務者は「非永住者以外の居住者」、「非永住者」、「非居住者」の3つに区分されます。なお、「居住者(非永住者以外)」、「非永住者」は居住者です。
居住者(所得税法2条第1項3号)
居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続きて1年以上居所を有する個人をいいます。
非永住者(所得税法2条第1項4号)
居住者のうち日本国籍がなく、かつ、過去10年以内の間に日本国内に住所又は居所を有する期間の合計が5年以下である個人を非永住者といいます。
非居住者(所得税法2条第1項5号)
国内に住所がなく、かつ現在まで引き続いて居所を有する期間が1年未満である個人を「非居住者」といいます。簡単に言えば、居住者以外の個人は非居住者に分類されます。
課税の範囲は?
納税義務者の範囲がわかれば、何に対して税金が課されるのかが気になります。それぞれの納税義務者について課税の範囲をみてみます。
非永住者以外の居住者(所得税法7条第1項1号)
居住者は、非永住者に該当しないかぎり、全ての所得に対して納税義務を負います。
非永住者(所得税法7条第1項2号)
非永住者は、国内において生じた所得(国内源泉所得)と、これ以外の所得で日本国内において支払われたもの又は日本国内に送金されたものに対して課税されます。
非居住者(所得税法7条第1項3号)
日本国内において生じた所得(国内源泉所得)に限って課税されます。
国内源泉所得は所得税法161条に以下のように定められております。課税方法の方法は、所得の種類や恒久的施設の有無、租税条約の有無によって異なるため留意が必要です。
- 恒久的施設帰属所得、国内にある資産の運用又は所有により生ずる所得、国内にある資産の譲渡により生ずる所得
- 組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生ずる利益で、その組合契約に基づいて配分を受けるもののうち一定のもの
- 国内にある土地、土地の上に存する権利、建物及び建物の附属設備又は構築物の譲渡による対価
- 国内で行う人的役務の提供を事業とする者の、その人的役務の提供に係る対価 例えば、映画俳優、音楽家等の芸能人、職業運動家、弁護士、公認会計士等の自由職業者又は科学技術、経営管理等の専門的知識や技能を持つ人の役務を提供したことによる対価がこれに当たります。
- 国内にある不動産や不動産の上に存する権利等の貸付けにより受け取る対価
- 日本の国債、地方債、内国法人の発行した社債の利子、外国法人が発行する債券の利子のうち恒久的施設を通じて行う事業に係るもの、国内の営業所に預けられた預貯金の利子等
- 内国法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配等
- 国内で業務を行う者に貸し付けた貸付金の利子で国内業務に係るもの
- 国内で業務を行う者から受ける工業所有権等の使用料、又はその譲渡の対価、著作権の使用料又はその譲渡の対価、機械装置等の使用料で国内業務に係るもの
- 給与、賞与、人的役務の提供に対する報酬のうち国内において行う勤務、人的役務の提供に基因するもの、公的年金、退職手当等のうち居住者期間に行った勤務等に基因するもの
- 国内で行う事業の広告宣伝のための賞金品
- 国内にある営業所等を通じて締結した保険契約等に基づく年金等
- 国内にある営業所等が受け入れた定期積金の給付補てん金等
- 国内において事業を行う者に対する出資につき、匿名組合契約等に基づく利益の分配
- その他の国内源泉所得
例えば、国内において行う業務又は国内にある資産に関し受ける保険金、補償金又は損害賠償金に係る所得がこれに当たります。
ここまでのあてはめ
日本人は「非永住居住者以外の居住者」か、「非居住者」にしかなれませんでした。
また、「非永住居住者以外の居住者」は、全世界所得に課税されるので、仮に海外で利益を確定させたとしても、日本の所得税法上は課税されてしまいます。
ということは、日本人が日本での課税を免れるためには、「非居住者」になり、所得が「国内源泉所得(所得税法161条)」に該当しない必要があります。
非居住者について詳しく検討してみます
非居住者の定義を改めて確認すると、所得税法2条1項5号には次のように記載があります。
居住者以外の個人であれば非居住者になれそうです。
居住者の定義は、所得税法2条1項3号に次のように記載されています。
住所を有しているか、現在まで引き続いて1年以上居所を有している個人が居住者に区分されるようです。
住所・居所って具体的には??
住所や、居所とはいったいどのようなもののことをいうのでしょうか。
国税庁のホームページには次のように記載があります。
「住所」とは、「各人の生活の本拠」をいい、国内に「生活の本拠」があるかどうかは、客観的事実によって判断することになっています。
「居所」とは、「その人の生活の本拠という程度には至らないが、その人が現実に居住している場所」とされています。
生活の実態があれば、住所または居所があると言えそうです。
住所については客観的事実によって判断すると記載されており、実際にその方の生活を詳しくヒアリングしなければわからなさそうです。居所も、客観的事実によって判断するとは書かれていませんが、実態判断になりそうです。
海外転勤ということにすればOK?
勤務先から1年超の海外転勤を命じられた場合であれば、海外転勤中は日本の非居住者と考えることが可能だと考えられます。
ただし、あくまでも業務上の命令である必要があります。
現状、海外取引もなく、海外支店もないような中小企業の息子が、海外支店を開設するということにし、突然海外生活始めるようなケースでは日本での所得税を回避するための租税回避行為と看做され、日本の居住者として課税される可能性が高いでしょう。
サラリーマンの方が、会社に命じられて、行かざるを得ないような状況であればOKかと考えられます。
PT(Permanent TravelerやPerpetual Traveler)はどうなの?
海外転勤でも難しいのであれば、Permanent Travelerはどうなのでしょうか。
かなり前の話ですが、サッカーの中田英寿さんは世界中を旅行していると耳にしたことがあります。彼のように世界各国を飛び回っている人はPTに該当するのでしょうか。
PTの「住所」や「居所」の判定は、住居、職業、資産の所在、親族の居住地、国籍等の情報を総合的に判断して客観的事実に基づき判断するとされています。
世界各国を転々としていれば、即、非居住者と認定できるわけでもなさそうです。
住所の判定は滞在日数のみによって判断するものでない旨が国税庁のホームページにも記載されており、1年の半分以上を海外で暮らしていたとしても、日本の居住者となる場合があるようです。
非居住者になるには
これらをまとめると、非居住者になるのはハードルが高そうです。
非居住者になるためには、断固たる決意が必要な気がします(例えば以下のことができる必要がありそうです。)。
- 海外生活する目的(租税回避以外の)を見つける
- 海外で仕事を見つける
- ビザをとる
- 日本の住民票を抜く
- 賃貸に住んでいるのであれば、賃貸マンションを解約
- 持ち家に住んでいるのであれば、売却する
- 極力長い期間、海外で生活する
- あまり日本に帰ってこない
これらの要件を複数組み合わせることができないと、税務署からみた”完全な非居住者”になることは難しいのかもしれません。
居住者を判定する要件が、「住所」や「居所」であり、最終的には実態判断になってしまう以上、日本には生活の拠点ないですよと自信をもって主張できるような実態を整えておく必要があります。
まとめ
日本の納税義務の有無から非居住者となる方法までを確認してみました。
非居住者になれば日本の所得税の課税は免れます。ただし、当然、海外では海外の税制によって課税されることを忘れてはいけません。日本で税金計算するよりも大変かもしれません。
目的があって海外で生活をするのであれば、良いと思いますが、1年以上も目的もなく海外生活を続けるのは難しい気がします。
所得税の負担が重いからといって海外生活を検討している方は、言葉や文化の違う国で生活することと税負担を天秤にかけることをお勧めします。
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