法人成りの”いろは”:メリット・デメリットの比較と税金はかかるのか?

こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。

確定申告の時期です。

個人事業主の方は、昨年利益が十分に出たため法人を設立しようと考えている方もいるのではないでしょうか。

法人成りのメリット/デメリットについて考えてみたいと思います。

法人成りとは?

法人成りとは個人事業主が法人を設立し、事業を法人へ移転することです。

メリットは?

ビジネス上、個人事業主よりも法人の方が信用力が高いとされています。

一般的に次のようなことがメリットとして挙げられます。

  • 株式会社XXXXと株式会社という文字がついているとイメージが良い
  • 金融機関からの信頼性がアップ
  • 株主は出資の範囲で責任を負う有限責任であるため、投資家からの出資を募りやすい
  • 社会保険に強制加入のため、従業員を集めやすい
  • 法人が給与を支払うことで所得の分散ができる(節税効果がある)
  • 法人に対する税率と個人に対する税率の違いを利用した節税が可能
  • 生命保険を法人契約にすることで生命保険を経費として落とせる
  • 社宅で家賃を節約できる
  • 社用車として法人契約の車を所有できる…などなど

デメリットは?

法人成りにはデメリットはないのでしょうか?

一般的にデメリットとして挙げられるのは次の事項です。

  • 年間約7万円は必ず税金がかかる
  • そもそも設立にお金がかかる
  • 複式簿記で記帳する必要がある
  • 社会保険に加入しなければならない
  • なんだか難しそう…

資産の引き継ぎ方は?

その方法は大きく分けて4つです。

  1. 法人-個人間で資産等の売買
  2. 現物出資(金銭で法人へ出資するのではなく、資産で会社に出資する)
  3. 贈与(タダであげる)
  4. 賃貸借契約を締結する

1.法人-個人間で資産等の売買、2.現物出資、3.贈与は資産等の所有権は法人に移転します。

4.賃貸借契約は資産等の所有権は個人のままです。個人は賃借料を法人から受取ることになります(当然法人は個人に賃貸料を支払う)。

引継げないもの

基本的に貸借対照表上に記載があるものは引継ぎすることが可能です。

しかし、次のものは引継ぎすることができません。

  1. 個人の信用
  2. 退職給付引当金
  3. 貸倒引当金(法人との間で資産は時価で売買します。回収不能部分は時価に織り込んであるはずです。そのため貸倒引当金は引継ぎができないのです)
  4. etc

1.法人-個人間で資産等の売買

時価で売買します。

法人:時価で資産等を譲受けます。

個人:時価で資産等を譲渡したものとして譲渡所得や事業所得を計算します。

*個人の場合は、法人へ移転した資産の種類によって所得区分が変わってくるため留意が必要です。

また、売買には事後設立というものがあります。

事後設立とは、会社の設立後2年以内に、設立前から存在する営業用財産を純資産額の5分の1以上の対価で取得する契約を締結することです。

上述した売買とは異なり、会社が設立後2年以内に○○さんから純資産額の5分の1以上の価額で資産を取得することが原始定款に記載されているものです。

この場合株主総会の特別決議を経た後でなければ資産の取得ができません。

通常の売買に比べ、株主総会の特別決議が必要である点が大きく異なります。

2.現物出資(金銭で法人へ出資するのではなく、資産で会社に出資する)

現物出資とは個人が金銭以外の資産をもって出資し、会社は受入れ資産の時価を資本金として受け入れることです。

売買と異なり、出資の対価としては法人の株式を引渡すことになるため、金銭を用意する必要がありません。

ただし、現物出資によって法人を設立すると現金のない法人が設立されてしまうため別途金融機関から借入をするなり、創業者が貸付をする必要があります。

また、現物出資は原則的に検査役の調査が必要です(例外として、1)現物出資額が500万円以下、2)公認会計士・弁護士・税理士による出資資産価額の証明書がある場合等は検査役の調査は不要)。

不動産を現物出資する場合には不動産鑑定士の鑑定評価も必要になり、売買に比べて手間がかかります。

3.贈与(タダであげる)

贈与は個人事業主が法人に対してタダで資産等を渡してしまうことです。

株主は自分なんだからタダであげたっていいじゃないか!とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、法人と個人は全くの別物として考える必要があります。法人は法人格という人格をもっているのです。

税法上、タダで資産をもらった法人は受贈益を認識する必要があり、それに対して法人税が課されます。

一方、タダで資産を譲渡した個人には課税なしと思っている方も多いと思います。しかし、個人が法人に対して資産を時価よりも著しく低い価額で譲渡した場合には時価で譲渡したものとみなすという恐ろしい条文が所得税法にはあります。タダで資産を譲渡したにも関わらず、税金は搾取するよ…という意味です。

4.賃貸借契約を締結する

法人が個人に資産を借りるリース契約を締結します。

法人は支払いリース料、個人は受取りリース料を計上します。

リース料の決定方法が難しいとは思いますが、それさえ決まってしまえば一番手間は少ない気がします。

個人は毎年所得税の申告が必要になるので手間からは解放されません…

法人成りの時の税金は?(個人)

法人成りするには、個人と法人の間で、売買や現物出資等が行われます。その時に発生する税金はどのようなものがあるのでしょうか。まずは、個人にかかる税金から確認してみます。

【前提】

  • 個人から法人へ資産を移転した日の属する年に、移転した全ての資産にかかる譲渡損益を申告する必要がある
  • 事業に関連する資産を譲渡したからと言ってすべて「事業所得」に区分されるわけではない。移転した資産の種類によって、「事業所得」に区分されるのか、「譲渡所得」、「山林所得」等に区分されるのかを検討する必要がある
  • 譲渡対価(いくらで資産を譲渡するのか)を決定する必要がある

売買・現物出資・贈与の場合

売買、現物出資、贈与のいずれの場合であっても、売買があったものとして個人には所得税が課されます。
これは個人が法人に低額で資産を譲渡等をしたばあいには、所得税法上時価で資産を譲渡したとみなすという条文(所59①二)が定められているからです。

事業所得

事業所得に区分されるものの例としては次のものがあります。

  • 棚卸資産(材料・製品・半製品・仕掛品・販売用の不動産)
  • 受取手形・売掛金
  • 未収入金
  • 貸付金
  • 20万円未満のもので業務上重要性が低いもの

ただし、棚卸資産以外は基本的に簿価=時価と考えることが実務上は一般的です。
債権を譲渡することは回収の手間等がかかるため譲渡せずに、個人に残しておくことが一般的です。

譲渡所得

棚卸資産、土地・建物、有価証券以外のものは一般的に譲渡所得に区分されます。

  • 電話加入権
  • 骨董品
  • 車両*
  • 備品
  • 特許権
  • ゴルフ会員権

*車両のうち、通勤に必要なものであれば生活用動産として非課税です。

土地・建物、有価証券は分離課税と言って、土地・建物のグループ、有価証券のグループの売却によって生じたキャピタルゲインそれぞれに対して課税されます。

賃貸の場合

賃貸の場合は、不動産の貸付か、それ以外かで所得区分が分かれます。

不動産所得

不動産の貸付による賃貸料収入は不動産所得として課税されます。不動産は土地・建物・建物附属設備・構築物のことを指します。

雑所得

不動産所得に分類されないものを雑所得に分類します。

ちなみに、雑所得とは利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得(所35①)とされています。

法人成りの時の税金は?(法人)

法人は個人事業主から資産を譲受ける場合、時価で譲受けたものとして考えます。

つまり、個人が法人に対し時価よりも低額で資産を譲渡した場合は、資産を安く購入できたとして受贈益の計上が必要です。

(例)…時価80のものを50で売却

-個人-

Cash 50/資産 70

売却損20/

-法人-

資産80 /現金 50

/受贈益30

法人は現金50を支払うことで80の価値がある資産を取得したと考えます。

棚卸資産

通常の第三者に売却する価額で法人は資産計上します。

仮に安い金額で資産を譲受けた場合は上述の受贈益を認識することになります。

土地・建物等の不動産や固定資産

土地・建物のうち時価のあるものは時価で引き継ぐことになります。

固定資産の場合には、時価で譲受ける必要があるだけではなく、次の諸税がかかる点にも留意が必要です。

  1. 不動産取得税…固定資産税評価額×4%(軽減措置等あり)
  2. 登録免許税…固定資産税評価額×2%(軽減措置等あり)
  3. 印紙税…契約書によりけり

債権(売掛金・受取手形等)

回収不能の債権を個人事業主から引継いだ場合、回収不能部分は役員(元個人事業主)に対する経済的利益として課税されます(価値のないものを有価で引取ったとして)。

退職金

個人事業主時代に雇っていた従業員に対する退職金は2つの取り扱い方法があります。

  1. 個人事業主から法人へ法人成りする際に従業員へ退職金を支給する
  2. 法人が退職給付債務を引継ぐ

この点については後日記載させていただきます。

税務署への届出書類

会社を設立した後は、税務署へ一定の書類を提出する必要があります。

1.法人設立届出書

名前の通り、税務署へ法人を設立した旨を連絡するための届出書です。

設立の日以後2か月以内に提出が必要。

次の資料も法人設立届出書と一緒に税務署へ提出します。

① 定款、寄附行為、規則又は規約(以下「定款等」といいます。)の写し
② 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)又は登記簿謄本(税制改正があり、謄本の提出は不要になりました)
③ 株主の名簿
④ 現物出資をした者の氏名、出資の金額及び出資の目的物の明細を記載した書類
⑤ 設立趣意書
⑥ 設立の時における貸借対照表
⑦ 合併により法人を設立した場合における合併契約書の写し
⑧ 分割により法人を設立した場合における分割計画書の写し

2.青色申告の承認申請書

一定水準以上の記帳をし、その帳簿書類等をきちんと保管している場合は一定の恩恵が与えられています。

①青色欠損金の繰越控除
②青色欠損金の繰戻しによる法人税額の還付
③試験研究を行った場合の特別控除
④中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

等、白色申告には認められていない税務上のメリットを青色申告書の承認申請書を提出することで享受できます。

3.給与支払事務所等の開設届出書

その法人が給与を支払う事務所である場合は、この給与支払事務所等の開設届出書を提出することになっています。

これは給与や賞与を支払う法人は、その支払額のうち一定金額の所得税を天引きし翌月10日までに税務署へ支払う義務を負っているためです。

4.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

小さな規模の会社にまで、源泉所得税を毎月納付させることは事務手続きの点から煩雑です。
小さな規模の会社(給与等の支払いを受ける者が常時10人未満の会社)は、当該申請書を提出すれば、半年に一回源泉所得税を納付することが特例で許されています。

提出した日の翌月に支払う給与等から適用されます。

5.申告期限延長の届出書

監査法人の監査をうける必要のある会社や外資系の日本法人の場合には、決算日から2か月経過した日に帳簿が閉まっていないケースが多々あります。

そのような場合であっても、事前に届出をしておくことで申告期限を延長することが可能です。

6.棚卸資産の評価方法の届出書

この届出を提出しない場合には、最終仕入原価法によって期末の棚卸資産を評価します。

最終仕入原価法とは、決算日に一番近い日に仕入れた価額を基にして期末棚卸資産の評価額を算定することです。

この届出を提出することで、期末棚卸資産の評価方法において、低価法、個別法・先入先出し法等が選択することができるようになります。

原 価 法
(イ) 個別法による原価法
(ロ) 先入先出法による原価法
(ハ) 総平均法による原価法
(ニ) 移動平均法による原価法
(ホ) 最終仕入原価法による原価法
(ヘ) 売価還元法による原価法
低 価 法
(イ) 個別法による原価法に基づく低価法
(ロ) 先入先出法による原価法に基づく低価法
(ハ) 総平均法による原価法に基づく低価法
(ニ) 移動平均法による原価法に基づく低価法
(ホ) 最終仕入原価法による原価法に基づく低価法
(ヘ) 売価還元法による原価法に基づく低価法

7.減価償却資産の償却方法の届出書

法人は建物・建物附属設備・構築物の償却方法は定額法(H28.4.1~)、車両等は定率法として法定償却方法が定められています。

車両等について、定率法以外の方法で償却したい場合等はこの届出書を提出する必要があります。

まとめ

法人成りすると、法人を維持していくために少しだけコストがかかります。

しかし、それ以上に対外信用力が増加します。

生命保険に法人加入したり等節税の機会も個人事業主とは比べもにならない程多くあります(逆に言えば個人事業主はあまり節税の余地がありません)。

*2018年5月27日大幅に記事を修正しています。

愛知県名古屋市を中心に活動している池下・覚王山の公認会計士・税理士澤田憲幸です。
中小企業のM&A、事業承継、スタートアップ支援を得意としています。
創業間もないベンチャー企業やフリーランスの方のサポートに特に力をいれています。

代表プロフィール

【主な業務内容】
スタートアップ支援
事業承継対策
M&Aサービス
税務顧問業務
スポット対応
個別コンサルティング業務

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はじめまして。愛知県名古屋市池下の公認会計士・税理士澤田憲幸です。

起業支援、事業承継対策、中小企業のM&Aや組織再編を得意としています。

会社設立直後で税金・会計・財務まで手が回らない経営者の方、今の顧問税理士にご不満のある方、事業承継対策に悩んでいる方、M&Aの話を金融機関等から提案されたが得な話か損する話か判断ができない方は一度ご相談ください。

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