こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
クライアントがM&Aを検討している?!しっかりとニーズを掴めてますか?
会計事務所として、どのように対応すべきでしょうか?
前回の記事では、会計事務所とM&Aの関わり方は5つあるとコメントさせていただきましたが、今回は積極的にM&Aに取り組むことを前提とします。
会計事務所がまずやること:相談してもらう
本当に本当にまずやるべきことは、クライアントがM&Aで会社を売ろうかなというニーズを教えてもらう事、つまり相談をしてもらえるような関係性を構築する(構築しておく)ことです。
そんなの当たり前だと考えている税理士・公認会計士の方が多いと思います。
ただし、自分のクライアントに対してできているか?と当てはめると、意外とできていないケースが多いのが現状です。
会計事務所の所長税理士・会計士の方、以下の1つにでも該当していませんか?
- 顧問先のXXX株式会社の社長は確かに高齢。最近、社長と会っていないなぁ。
- 社長の息子・娘の進路について詳しく知らない
- 会社の出口戦略について、一度も話したことがない
- 会計事務所職員は顧問先の社長と何を話しているのか、把握していない。
- 会計事務所職員が事業承継やIPO、M&Aに関する知識が乏しい(と想定される)
会計事務所の所長や職員の方が、顧問先の社長とコミュニケーションが取れていれば、これらの情報は自然と入ってくるものです。自然に入ってこないにしても、次回面談するタイミングで話を切り出すことが可能です。
顧問先との関係性ができていないと、事業承継や会社の売却等の出口戦略について話を切り出すのは容易ではありません。うちの事務所の職員は全員大丈夫と思っていても、意外とこの類の話を切り出せない職員の方は多いです。
会計事務所として、事業承継ニーズ、M&Aニーズの把握ができていないと、前回の通り金融機関や他の事務所主導で顧問先がM&Aを実行してしまいます(会計事務所としては一番避けたいケースです)。
M&A以外の手法がないかの検討をしましょう
社長から会社の将来について相談をしてもらえたのであれば、会社の出口について教えてあげましょう。
実は、会社の出口は実質的に3つしかありません。
- 親族内承継
- 従業員承継(MBO)
- 第三者承継(M&A)
IPO清算・廃業
5つ列挙させていただきましたが、「4.IPO」と「5.清算・廃業」は現実的に難しいケース、会社が消滅してしまうため選択肢からは除外です。
検討手順
事業承継の検討手順としては、一般的には次の流れで検討します。
一番上の後継者候補は親族内の後継者のことを指します。
1)後継者(親族)候補の有無の確認、
2)後継者(親族)のやる気の確認
3)親族外後継者候補の有無の確認
一般的には、この流れです。
社長の頭の中には整理されているものですが、紙に書きだす等して可視化することをお勧めいたします。
本当に親族に会社を継ぎたいと思う人がいないのか、従業員の中に経営者としての資質を有する人がいないのかを、M&Aの決断前に確認しましょう。
実は会社を継ぎたかったと親族に言われるのは、個人的には微妙だと思います。打診すべき人には会社を継ぐ気があるか?という点をしっかりと打診すべきです。
会計事務所としては、親族内承継、従業員承継、M&Aの場合のスキーム等が気になるところはありますが、スキームよりも優先すべきは「誰に継がせるか」です。会社の出口を経営者と話す際は、それぞれの手法を選択した場合のメリット・デメリットを伝えてあげるのが良いでしょう。
実は少ないM&A経験のある会計事務所
M&Aを実際に業務として行っている会計事務所は多くありません。
多くの事務所がM&A業者に頼む丸投げ方式を採用しているのではないでしょうか。
自社でM&Aを実施している会計事務所はまだまだ少数派です。というのも、中小企業M&Aは大企業同士のM&Aとは若干毛色が異なること、そもそも中小企業M&A経験者が少ないこと、会計事務所の営業範囲では相手探しが難しいという点が挙げられます。
日税連から事業承継サイト「担い手探しナビ」がリリースされ、会計事務所が中心となったM&Aがより活発になると良いと思っています。
いくらで売れる?最初に、簡易M&A株価を算出しよう
親族内承継、従業員承継、M&A(第三者承継)で悩んでいる場合や、M&Aによる事業承継手法しか選択肢がない経営者の方が気にするのは、M&Aを選択した場合はいくら、いつ、誰に売れるのか?を経営者の方は気にしています。
株価が全てではないですが、気になる要因の1つであることに間違いありません。
会計事務所としては、M&Aを実行した場合の株価算定や、最終的にお金がいくら手元に残るのかの計算をしてあげましょう。
一般的に、M&A株価>>>相続税法上の株価になることが多いです。
代表的なM&A株価の算定方法
- 時価純資産+営業権
- DCF法(Discounted Cash Flow 法)
- EBITDA倍率法 等
澤田公認会計士・税理士事務所では株価算定サービスも提供させていただいております。
M&Aをやると決めた。M&Aの進め方を説明をしよう。
簡易株価評価を行い、M&Aに前向きになったのであればM&Aの進め方をお伝えしましょう。
中小企業M&Aは次のような流れで進みます。
1.自社の理解・情報整理・アピールポイントをまとめる【売】
まずやることは、改めての自社の理解・情報整理・アピールポイントをまとめることです。
就職活動やお見合いに近い感覚だと思っていただければよいです。
プロフィールシートも持たずに、買手候補企業へ出かけて行っても、何処の誰だかわかりません。
M&A業者に丸投げする場合は、M&A業者がIM(Information Memorandum)という企業情報をまとめてくれます。
会計事務所がメインとなってM&Aを実施するのであれば、IMをしっかりと作りこみましょう。
IMに記載する一般的な情報
IMには次のような情報を記載します。これをみればその企業の情報がわかるというものです。
- 会社概要(商号、本店所在地、事業内容、主要販売先、許認可、設立年度等)
- 会社沿革
- 株主構成
- ビジネスモデル/商流
- 財務ハイライト
- 事業所や工場の所在地
- 主要販売先
- 主要仕入/外注先
- 代表者のプロフィール
- 組織図
- 従業員一覧
- 就業状況
2.株価評価を行う【売】
簡易株価評価の段階では、M&Aを実際に実行するか不明でしたので、簡易に行った株価評価をより詳細に実施します。
特に注意すべき点としては、簿外債務です。
代表的な簿外債務は、従業員退職金、訴訟、保証債務、クレーム処理費、ポイント引当金等が挙げられます。
3.ノンネームシートの作成【売】
次はノンネームシートの作成です。
ノンネームシートとは、企業が特定できない程度の情報シートです。記載例を掲載してありますので、参考にしてください。
買手候補企業に買収を打診するにあたり、いきなり売り手企業の社名を明かすのではなく、まずはノンネームシートによる興味の有無を判断してもらうために必要になります。
ノンネームシート記載例
- 事業内容:電気工事業
- 所在地:中部地方
- 売上:2億円以上
- 従業員数:10人以下
- スキーム:株式譲渡
- 譲渡理由:後継者不在
- 特徴:大手との取引あり
4.相手探し【売】【買】
ノンネームシートに興味を持つ買い手企業を探します。
興味を持つ会社があわられたら、IMを買手候補企業に見せ、より詳細な検討をしてもらいましょう。
M&Aの中で一番大変なのが相手探しです。
買手候補企業のニーズにピタリ一致すれば、すぐに相手探しは終了しますが、ニッチ分野の事業を行っている会社は買手候補企業を見つけるのが難しくなります。
どこに会社があるのか、という地域性も相手探しという観点からは重要です。
同じ売上、同じ業種、同じ技術という、所在地以外の条件が同じであれば、交通の便の良い場所にある会社のほうが人気になります。
ちなみに、愛知県は東京と大阪の間ということもあり、人気地域です。
5.トップ面談【売】【買】
売り手企業の経営者と買収希望企業の買い手社長等の経営陣と実際に面談します。
中小企業のM&Aでは売手と買手の相性が重要です。
売手と買手の相性とは、ざっくりと言い換えてしまえば、社長同士の相性です。
トップ面談がうまくいくと、その後の交渉もスムーズにいくケースが多いです。
6.基本合意書または意向表明書の受領【売】【買】
買収希望企業と基本合意書の締結または、買収希望企業から意向表明書を受領します。
この時点までに、つぶせる論点はつぶしておいた方が、DD後にブレイクする確率が小さくなります。
7.DD【売】【買】
買収希望が公認会計士や税理士の専門家に依頼し、売り手企業の財務内容を第三者的立場からチェックします。
会計事務所としては、ここの段階で簿外負債や会計処理の誤りを指摘されると辛い思いをすることになります。
いくらトップ面談がうまくいったとしても、買い手企業にとって見逃すことのできない論点がDDで見つかってしまった場合は、最終契約までたどり着かなくなる可能性もあります。
そのため、「2.株価評価を行う【売】」の時点で予め簿外負債等について把握し、事前に買収希望企業に伝えておく必要があるのです。全てはM&Aの成約をスムーズに進めるための下ごしらえです。
8.最終契約書の締結・対価の支払い【売】【買】
DDでとんでもないものも見つからず、売・買の双方が納得できる条件が整ったのであれば最終契約書の締結及び対価の支払です。
通常、売り手企業がM&Aを実行すると決断してから最終契約書の締結までは10か月程度と言われています。
すぐに買収希望企業が出現すればもっと短い期間でM&Aは終了しますが、買収希望企業が出現しないという状況が数年続く場合には、数年間という長いスパンを経て、やっと最終契約までたどり着くということもあります。
顧問先がM&Aすると決めたら、守らせる2つのこと。
顧問先がM&Aをすると決断したら、会計事務所としては顧問先に次の2つのことを守らせてください。
2.秘密を守る
この2つのことは、小学生のころから言われている内容です。
当たり前のことですが、改めてコメントさせていただくほど重要です。
隠し事はしない
隠し事はしないというのは、M&Aでは重要です。
前述したとおり、最終契約書の締結前には公認会計士・税理士によるDDが行われます。ここで隠し事がバレると、今まで検討してきた大前提が崩れ、最終契約締結にたどり着けなくなってしまいます。
隠し事をせずに、あらかじめ買収希望企業にその旨を伝えておけば、その事情を踏まえて検討をしてもらえます。双方にとって隠し事をしているとメリットがないのです。
秘密を守る
M&Aは秘匿性が重要です。経営者が会社の売却を検討している、と取引先にバレると取引先は良い思いをしません。取引量を少しずつ減らしていこうと考える人、突然取引を中止する会社等が現れても不思議ではありません。
買手候補企業は今の現状の会社を買収しようと検討しています。得意先が1つ、2つ欠落した会社には興味がなくなってしまうかもしれません。
M&Aはうまくいかなくなる、通常の事業はうまくいかなくなる、M&Aに関する秘密を守らなければ踏んだり蹴ったりの結末が待っている可能性があります。
会社に致命的な一撃を与えないためにも、秘密を守るという至極当たり前のことを顧問先には守ってもらうようにしましょう。
まとめ
顧問先がM&Aのことを考えている!という状況で会計事務所として対応すべきことをご紹介させていただきました。
本文中にも記載した通り、中小企業M&Aを積極的に実行している会計事務所は多くありません。ここに記載させていただいたことを顧問先にお話ししていただければ、M&Aに詳しいんだなと最低限思ってもらえるはずです。
どのような業務でも共通ですが、まずは相談してもらえる関係性を作ることこれが需要なのは間違いありません。
【少しだけ相談したい方向けに、スポット相談も実施中です】
創業間もないベンチャー企業やフリーランスの方のサポートに特に力をいれています。
【プロフィール】
・プロフィール
【主な業務内容】
・スタートアップ支援
・事業承継対策
・M&Aサービス
・税務顧問業務
・個別コンサルティング業務
・コスト重視プラン
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起業支援、事業承継対策、中小企業のM&Aや組織再編を得意としています。
会社設立直後で税金・会計・財務まで手が回らない経営者の方、今の顧問税理士にご不満のある方、事業承継対策に悩んでいる方、M&Aの話を金融機関等から提案されたが得な話か損する話か判断ができない方は一度ご相談ください。
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