こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
同業の税理士さんから沢山相談をいただいております。
金融機関(地銀さんや信金さん)が事業承継対策を提案してきた。
どうしたものか、というご相談です。
特に多いのが持株会社スキームについてです。個人的には今更感があるスキームですが、多いんです。
これについて検討してみます。
持株会社スキームとは?
そもそも持株会社スキームとは何でしょうか。
既存の事業会社の株式を、新たに設立した持株会社に保有させることで相続税対策を行うものです。
このスキームの流れとしては以下のようになります。
- 後継者候補に会社を設立させる
- 現株主であるオーナーが新規に設立した会社に事業会社株式を売却
- 設立したばかりの会社であるため、株式取得資金は金融機関から借入れ
- 事業会社の資金を使い、金融機関へ借入金を返済する。
新たに会社設立を行うことを前提とすると、持株会社スキームのメリットは以下になります。
- 持株会社を設立する際に、株主を変更できる。
- 節税効果が見込まれる
この2つについて詳細にみてみます。
持株会社を設立する際に、株主を変更できる
持株会社を設立する際に、株主を後継者にすることが可能です。
これは株式移転では実現できませんが、新たに持株会社を設立する場合に実行が可能です。
新たに会社を設立するため、当然ですが株主を自由に決めることが可能です。
これにより、現オーナーの株式を後継者へ実質的に移転することが可能になります。
節税効果が見込まれる
持株会社を設立することで、節税効果が見込まれます。
持株会社を設立しなかった場合と持株会社を設立した場合を比較してみます。
【持株会社を設立しなかった場合】
現状:
事業会社株式の評価額 10,000(時価純資産評価額)
5年後:
事業会社株式の評価額 56,200
(簿価純資産評価50,000、時価純資産60,000)
【持株会社を設立した場合】
設立時:
持株会社評価額 ゼロ
= 事業会社株式の評価額 10,000(時価純資産評価額) ‐ 金融機関借入金 10,000
5年後:
持株会社の評価額 46,200
= 事業会社株式の評価額 56,200 ‐ 金融機関借入金 10,000
2つを比較してみると、5年後の株式評価額は、10,000下がりました(56,200と46,200の差額)。金融機関借入金の残高だけ評価額に差が出ていることがわかります。
今回は純資産評価額のみでの計算で、類似業種比準価額は考慮していませんが持株会社を設立すると節税効果が見込まれることは確かです。類似業種比準価額の方が一般的に株価が低くなる傾向にあります。
いいことばかりに見える!注意点はないのか?
株主の変更ができる、株の評価額が下がるという、素晴らしいスキームに見えます。
この持株会社スキームにも留意点があります。
持株会社設立に理由があるか?
冷静になって考えればわかることですが、持株会社を設立する理由があるのか?という話です。
・今の株主構成では不都合が生じる(将来的な相続税納税額に)
・持株会社を設立する納得できる理由
といった、持株会社を設立したという形式的な側面だけでなく、なぜ設立する必要があったのかという実態要件が重要です。
税務署から否認されるケースがでてきている
事実として、相続税評価額を引き下げるためだけに、当該スキームを実行したのではと税務署から指摘を受けるケースが2017年から頻発しています。
税理士業界にいる人でもこの事実を知らない人が多いです。
税理士でも知らない事案を経営者が知っているはずがありません。経営者の方は税務の専門家ではありませんから。
リスクヘッジとして持株会社スキームが否認されている事例があるという事実だけは顧問先に伝えてあげるようにしましょう。
税負担総額で考えると、お得かは不明
同じ非上場株式の評価額であっても、相続税法上の評価額と法人税・所得税法上の評価額は異なります。
持株会社スキームでは、個人株主が保有している株式を持株会社へ売却することから始まります。
この時の評価額は個人が法人へ株式を売却する場合ですので、法人税・所得税法上の評価額を用いることになります。
一般的に、法人税・所得税法所の評価額>>相続税法所の評価額となるケースが多いです。
何が言いたいかといえば、株式を保有しているオーナは多額の現金を手にすることになり、相続発生時の相続税額が非上場株式を保有していた場合に比べ増加することがあるのです。
確かに持株会社スキームでは、数年後の株式評価額は下がります。株式評価額だけではなく、相続税や株式譲渡による所得税額まで総合的に勘案する必要があるに注意が必要です。
株特を避けるためには、追加借入れが必要かも
持株会社を設立した場合、設立しなかった場合の株式の評価額は簡便的に純資産評価額で計算しました。
設立3年未満の会社は純資産価額で評価しなければなりませんが、4年目以降は類似業種比準方式の評価も株式の評価に含めることができます。
これには一定の要件があり、持株会社が「株特」に該当しない必要があります。
株特以外にも、土地保有特定会社、比準要素ゼロの会社に該当すると類似業種比準方式は利用できず純資産評価方式で評価することになります。
この株特等に該当しないように、会社の資産ポートフォリオをウォッチ及び入れ替えしていく必要が生じます。
一般的には不動産を購入、金融機関からの借入金、生命保険への加入等によって総資産に占める有価証券の割合を減らしていくことになります。持株会社を設立した後も、金融機関さんからは様々なアプローチを合理的な理由で受けることになるのです。
事実、純資産価額と類似業種比準方式で評価した株価には数倍の乖離があるケースも珍しくありません。提案に乗るのも、案外ありな場合もありますが、しっかりと状況を見て検討する必要があるので勢いだけで決断しないように注意してください。
まとめ
金融機関等からの相続税や事業承継対策の提案は、内容によりますが税務的な観点から十分な検討がされていないケースもあるので注意が必要です。
持株会社のスキームには十分なメリットがあるケースもあり、税務署が否認しているからといって即否定すべきものでもありません。
実行することに合理的な理由があれば(例えば、複数社の法人を保有しており、資本関係を簡潔にしたい等)持株会社を設立すること自体に問題はないと思われますし。
提案されたスキームを鵜呑みにするのではなく、節税以外にメリットがあるのか、という点も踏まえて総合的に勘案すべきではないでしょうか。
~~持株会社についての記事を追加しました~~
持株会社HDして何がしたいのか?節税を1番の目的にしないこと。
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起業支援、事業承継対策、中小企業のM&Aや組織再編を得意としています。
会社設立直後で税金・会計・財務まで手が回らない経営者の方、今の顧問税理士にご不満のある方、事業承継対策に悩んでいる方、M&Aの話を金融機関等から提案されたが得な話か損する話か判断ができない方は一度ご相談ください。
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