こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
以前も記事にした中小企業者の話ですが、ちょうど税務通信(#3554)でも触れられていたので、自分の中の整理も込めて改めて記載させていただきます。
中小企業向けに租税特別措置法で定められている特例
1.法人税率の軽減
2.少額減価償却資産の取得価額の一括損金算入
3.一括評価貸倒引当金の法定繰入率の適用
<特別償却・特別控除>
4.高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
5.中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
6.地方活力向上地域等において特定建物等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
7.特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
8.中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
9.給与等の引上げ及び設備投資を行つた場合等の法人税額の特別控除
等多岐にわたります。
適用除外の要件がある
従前は資本金の額が1億円か否かで中小企業者を判断していましたが、平成29年度以降の税制改正において、一定の要件を満たす会社が中小企業者の範囲から除外されることになりました。
除外される法人を、「適用除外事業者」よんでいます。
簡単に言えば、当該事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の平均所得金額が15億円を超える法人のことをいいます。
資本金が小さくとも、これだけ十分(15億円)稼ぐことができるのであれば、中小企業じゃないですよ。という意味合いです。
適用除外事業者の適用がないものもある
全ての措置法について、適用除外事業者の適用があるわけではありません。
代表的なもので言えば、交際費と欠損金の繰戻し還付は課税所得が15億円を超えていても中小企業者特例を活用することが可能です。
・交際費における中小企業者の定額控除
800万円までは損金計上してOKというもの。
・欠損金額の繰戻し還付
例外に注意!
ほうほう、資本金が1億円以下であれば交際費は800万円までは損金計上OKなんだな。と思った場合は、アウトです。
交際費と欠損金の繰戻し還付については、資本金が5億円以上である法人との間に完全支配関係がある法人は、適用がありません。
交際費は5000円以下の飲食費以外は損金不算入です…orz
*完全支配関係とは、法人税法2条の定義によると、以下のように書かれています。
一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう
法人税法施行令第4条の2を確認してみます。括弧の中は省略しております。
法第2条第12号の7の6に規定する政令で定める関係は、一の者()が法人の発行済株式等(())の全部を保有する場合における当該一の者と当該法人との間の関係(以下この項において「直接完全支配関係」という。)とする。
ということです。
簡単に要約すると、完全支配関係とは、ある特定の者から発行済株式等の全部を保有されている場合です。つまり、第三者が1人でも株主に存在する場合は、完全支配関係はありません。
この点、議決権ベースで判定するのでは?という質問を稀にいただきますが、法人税法2条では「発行済株式等」と記載されているため、株式の議決権ベースではありません。
参考:議決権のない株式を発行した場合の完全支配関係・支配関係について
https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/hojin/170321/besshi.htm
みなし大企業という例外もあるので注意
適用除外事業者の適用除外、以外にも、適用しようとする措置法によっては、「みなし大企業」というものに該当しないかの留意が必要です。
例外の例外の例外の…と、色々な例外規定がでてくるので混乱してしまいます(わたしも混乱していたので今まとめているのですが…)。
みなし大企業とは、大企業の子会社等は大企業の後ろ盾があるので大企業とみなしますよ、というものです。
みなし大企業に該当してしまうのは次のような会社です。
平成31年度の税制改正において、「発行済株式数又は出資総額」から自己の株式または出資が除外され、「大規模法人」に以下の法人が追加されました
イ 大法人(資本金額が5億円以上である法人等)の100%子法人
ロ 100%グループ内の複数の大法人に発行済株式数又は出資総額の全部を保有されている法人
つまり、同一の大規模法人に50%以上の発行済株式を保有されている場合は、NGということになります。
みなし大企業に該当した場合の適用除外の措置法は?
みなし大企業に該当してしまった場合に適用除外とされる措置法は以下のがあげられます(ピックアップしただけなので網羅性は書けます)
・試験研究を行つた場合の法人税額の特別控除
・中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
・中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
・特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
・中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除
・給与等の引上げ及び設備投資を行つた場合等の法人税額の特別控除←なんと!こちらも対象みなし大企業の適用除外の対象になっています。
例外:みなし大企業であっても適用できるものがある
法人税率の軽減や一括評価金銭債権に関する貸倒引当金の法定繰入率の適用はみなし大企業でっても適用することができます。
*大法人との間に完全支配関係がある場合は適用できません。
投資事業有限責任組合から出資を受けた場合はどうなる?
みなし大企業に該当するかを判定するにあたって、投資ファンド(投資事業有限責任組合)から出資を受けている場合はどうなるのか?という疑問が生じます。
この場合、みなし大企業の判定上、当該ファンドに対して投資している会社の資本金等を見に行く必要があるので注意が必要です。
【参考】租税特別措置法第42条の4に規定する中小企業者について(投資事業有限責任組合が出資する法人)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/27/15.htm
平成31年度の税制改正で、特例が創設されています(また特例です)
平成31年度の税制改正では事業承継ファンドから出資を受けた場合の法人税等の特例が創設されています。
中小機構から出資を受けた事業承継ファンドを通じて、中小機構から出資を受けた場合には、中小機構出資分を大企業保有分と評価しないという特例が創設されました。これにより、一定の事業承継ファンドから出資を受けている場合は中小企業特例が適用できる可能性が残されることになりました。
将来的なM&Aに向けた磨き上げ支援等を行う事業承継ファンドは、中小企業の事業承継を促進するに当たり有効であり、近年その数は増加傾向にあります。他方、事業承継ファンドを通じた中小機構による出資割合が一定以上となる場合、出資を受けた中小企業は「大企業」とみなされ、設備投資に係る中小企業税制が適用されないという制約があり、事業承継に向けた設備投資が滞るおそれがあります。このため、事業承継ファンドを通じた事業承継を一層促進すべく、中小企業等経営強化法に基づく認定を受けた事業承継ファンドを通じて中小機構から出資を受けた場合には、中小機構出資分を大企業保有分と評価しないこととする措置を講じます。
まとめ
M&Aで規模の大きそうな法人へグループインした場合、今まで適用のあった税制が使えなくなることがあるので注意が必要です。
税制上の恩恵をうけることができる!ラッキーと計算していても、それが適用できなくなる可能性があるということです。これはいかにも残念な結果です。
悲しい結果にならないよう、どの税制の該当があるのかをしっかりとチェックするようにしましょう。
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