こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
TAマスター752号に中小企業M&Aに関する興味深い記事がありましたので紹介いたします。
表明保証違反により、売主に損害賠償が命じられた事例です。
どのような事例なのか?
【事実関係】
・個人が保有する非上場株式全てを法人へ売却(平成24年2月)
・売買価額は1億5000万円
・株式譲渡契約書には次の事項が表明保証されていた。
-法人税等を適正に申告している
-税金の支払及び納付は完了している
-経営に影響を及ぼす簿外負債や将来具体化する課税問題等は存在しない
・税務調査において、売上除外、仕入税額控除の不適用等の指摘事項を受け、1億4000万円の未払租税債務が発覚し、修正申告書を提出(平成24年10月)
【買い手】
・税金を適正に申告しておらず、1億4000万円の簿外負債が存在することは表明保証違反であるため、売主に対して損害賠償請求。
【売り手】
・買い手は財務・税務内容をデューデリしているので、デューデリで発見できなかったのは買主に重大な過失があると主張。
【裁判所の判断】
買主がデューデリジェンスをおこなったとしても、売上除外や仕入税額控除の請求書の不保存までは総勘定元帳に記載がないことから把握することは難しいため、買主に過失があるとはいえない。
売り手企業には、株式譲渡契約締結時において、売上除外や、仕入れに係る消費税の申告漏れによる未払租税債務が存在し、将来具体化する課税問題があると判断し、表明保証違反と判定。
未払租税債務を考慮した売り手企業の株価はゼロであり、未払租税債務が存在しないとした場合の、会社の価値は9700万円と認められることから9700万円の損害賠償を命じた。
表明保証違反が裁判の原因。では、表明保証とは?
M&Aの最終契約書を締結する際には、表明保証を行うことが一般的です。
英語では、”Rep and Warranty”と呼びます。ヒョウメイホショウでは長いので、レプワラと呼ぶ人もいます。
まずは、表明保証の意味を確認してみます。
表明保証とは、売り手が買い手に対し、最終契約の締結日や譲渡日等において、対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するもの。
対象企業の財務や法務等に関する様々な問題点について、買い手は買収監査を実施してその把握に努め、株式譲渡代金等の契約条件の交渉を行う。しかし、そのような問題点を短期の買収監査で全て把握することは困難であり、全てを株式譲渡代金に織り込んで交渉することも現実的ではない。
そこで、現在のM&Aの実務では、売り手が買い手に対し、最終契約書内で対象会社の事業状況、財務状況等につきある程度、網羅的な表明保証を行うことが一般的。
(日本M&AセンターHPより)
表明保証は、自社には税務調査が入っても大丈夫です、売上除外等の悪質なことは行っていません、もちろん訴訟等の簿外債務等も存在しませんという類のことを、売主さんに宣誓してもらうことです。
というのは、M&A交渉の短期間の間では、買い手企業が、売り手企業のことを全て詳細に調査することは実質的に不可能であるためです。
デューデリジェンスにおいて、調査しきれなかったこと、調査の仕様がないことについては、表明保証してもらうことが実務上一般的に行われています。
今回のケースでは、株式譲渡契約書で、1)法人税等を適正に申告している、2)税金の支払及び納付は完了している、3)経営に影響を及ぼす簿外負債や将来具体化する課税問題等は存在しない旨を売り手株主が表明保証したにもかかわらず、株式譲渡契約後に行われた税務調査において、売上除外、仕入税額控除の不適用等の指摘事項を受け、1億4000万円の未払租税債務が発覚し、修正申告書を提出(平成24年10月)しています、結果未払租税債務はあるし、経営に影響を及ぼす簿外負債も存在していたということです。
表明保証違反で損害を受けたら損害賠償請求できる
本ケースでは、税務調査により、売上除外が指摘されています。
売上除外とは、意図的に売上を計上しないことです。うっかり売上の計上漏れがあった、期ズレが生じてしまったというものとは、ちょっと性質が異なります。
売り手企業が売上除外の事実を隠し通そうとしたため、結果として表明保証違反+損害賠償される羽目になっています。事前に当該事実を伝えていたら、株価の減額交渉をされると思ったのでしょう。
結果として、流れとしてはこのような形で表明保証違反がばれてしまっています。
→M&Aの最終契約書締結時において、当然売り手はその事実を認識していた(意図的に除外しているので、知っているに違いない)。
→売上をちょろまかしているため、実は、法人税等を適正に申告していない
→株式譲渡契約書締結時の表明保証では虚偽の表明保証を行っている(今言うと、株価が減額されるかもしれない。そもそもM&Aが中止になるかもしれないため嘘をついた)
→税務調査により売上除外の事実が発覚。表明保証違反により買い手企業が損害を被ったので、損害賠償請求された
安易に表明保証しない、表明保証事項は要交渉
M&Aは短期間にデューデリジェンスが行われ、その限りある時間・資源の中で各種の調査を行うことになります。全ての事項を把握できるわけではないので、表明保証において対応するということがM&A実務では一般的に行われているわけです。
ただし、何から何まで表明保証すればいいかというと、そうではありません。
表明保証違反により相手方に損害を被らせた場合には損害賠償請求をされてしまいます。
売上除外があるにも関わらず、「ないです」と表明保証をした場合も同様です。
これを表明保証したのであれば、もしかしたら損害賠償の対象になるかもしれない事項や、自社には関係ないと思われる事柄については表明保証項目から外してもらうように交渉することをお勧めします。
まとめ
どうせバレないだろうと、表明保証時に嘘をつくと痛い目にあいます。
あとから損害賠償請求されるぐらいであれば、事前にディスクローズしておくべきです。お互い後味が悪くならないようにするため、時間を有効活用するためにも。
表明保証は身近な単語ではないで、非常にわかりづらいです。
ただ、M&A当事者にとっては重要な意味を持つので、なぁなぁにして流さず、しっかりと内容を検討するようにしましょう。
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