ICOに関する仮想通貨の会計処理をメタップスから学ぶ

こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。

国内の上場企業初のICOを実施したメタップス。

仮想通貨の会計処理について監査法人との協議が難航していましたが、2018年2月14日に2018年8月期第1期四半期報告書が提出されました。

協議が難航していた理由と、その結果どのような会計処理を行ったのかみてみます。

協議が難航していた理由

メタップスが2018年1月15日付で提出している、「2018年8月期第1四半期報告書の提出期限延長に係る承認申請書提出及び承認のお知らせ」では四半期報告書の提出期限延長申請が必要な理由を以下のように説明しています。

Metaps Plus Inc.(韓国)が実施したICOが協議の論点

  • メタップスの連結子会社であるMetaps Plus Inc.(韓国)がプラスコインをICOにより販売。その対価として、イーサリアムを受領
  • 2017年11月11日に韓国で仮想通貨取引所”CoinRoom”を設立。プラスコインの取引を開始。
  • 韓国ではICOに対する規制に関する報道発表が頻繁に行われている。2018年1月11日に韓国政府が「仮想通貨取引禁止特別法」を準備しているとの報道もされている。

採用していた会計処理

メタップスがICOについて検討していた会計処理は以下のものです。

ICOで受領した対価は将来の収益として負債計上

・ICOはプラスコインの販売であるとして、負債に計上するという判断をしています。

ただし、収益計上のタイミングについては監査法人と協議中であるため、受領した対価の全額を前受金として計上

自社の保有する仮想通貨は無形資産又は棚卸資産

ICOで受領したイーサリアムをはじめとする自社で保有する仮想通貨は取得原価にて無形資産または、棚卸資産(CoinRoom保有分)として計上。

無形資産:売却時に、簿価との差額を損益計上

棚卸資産:売却時に、売却価額を売上高、帳簿価額を売上原価に計上

自社保有のプラスコイン

帳簿価格ゼロ円として、無形資産又は棚卸資産として計上

監査法人との検証

  • 韓国の法制度を踏まえたICOの法律関係・規制の状況把握と内容検討に2週間から3週間必要
  • 仮想通貨の実在性やセキュリティに関する内部統制の検討にも2週間必要
  • IFRSに基づく前例がない開示を検討する必要がある
  • メタップスは保有する仮想通貨を、「前受金(将来の収益化が前提)」として計上しているが、韓国の法律で、仮想通貨の取引が禁止されるような場合には、現状、前受金として認識しているものを、顧客への返還義務として負債計上し、関連する注記を変更する必要がある

採用された仮想通貨の会計処理

決算説明資料では次のように紹介されています。監査法人との協議の結果、会計処理が少し変わっています。

ICO受領対価:前受金→繰延収益

前受金として負債計上する予定でしたが、「繰延収益」として第一四半期は計上するようです。

ICOのトークン販売額は第一四半期では収益計上しない。会計処理が確定した段階(2Q以降)に収益計上する。

ICOはプラスコイン(トークン)を発行していますが、株式発行とは異なり、あくまでもトークンの販売です。最終的には収益計上されるものですが、ICOの目的を実現するまでは一時的に負債に計上するとのことです。

自社の保有する仮想通貨:ICO対価は無形資産

ICOで受領したイーサリアムをはじめとする自社で保有する仮想通貨は取得原価にて無形資産として計上。

無形資産:売却時に、簿価との差額を損益計上(仮想通貨の処分見込価額が取得原価を相当程度下回った場合は、差額を費用計上する)

自社の保有する仮想通貨:CoinRoom保有分は棚卸資産

CoinRoomの保有する仮想通貨は棚卸資産として計上し、四半期末時点で公正価値評価を行う。

自社保有のプラスコイン

無形資産または棚卸資産として計上予定でしたが、帳簿価額はゼロ円で無形資産計上する。

ICOで発行したプラスコインの一部は自社保有分として割り当てを行っているため自社でプラスコインを保有しているようです。

【New】顧客からの預かり仮想通貨

顧客から預かっている仮想通貨は棚卸資産として計上し、四半期末時点で公正価値評価を行い、同額を流動負債その他に計上する。

 

第1四半期報告書の該当箇所

色々と記載がありますが、以下のように四半期報告書で述べられています。仮想通貨に関するメタップスと監査法人の協議結果の現時点における集大成です。

仮想通貨に関する法整備がされていないので、ホワイトペーパーに記載している権利と義務に基づきICOの処理を実施している点は非常に興味深いです。

棚卸資産
トレーディング目的で保有する仮想通貨
短期的な価格変動により利益を獲得する目的で保有する仮想通貨は、棚卸資産として認識し、当初認識時点において取得原価で測定するとともに、当初認識後においては売却コスト控除後の公正価値で測定しております。公正価値の変動は当該変動が発生した期の純損益として認識しております。
トレーディング目的で保有する仮想通貨の公正価値は主要な仮想通貨取引所の取引価格に基づいて算定しております。

顧客から預託を受けた仮想通貨
顧客から預託を受けた仮想通貨は棚卸資産として認識し、売却コスト控除後の公正価値で測定しております。また、同額を顧客から預託を受けた仮想通貨に対応する負債として計上しております。顧客から預託を受けた仮想通貨の公正価値は主要な仮想通貨取引所の取引価格に基づいて算定しております。

無形資産
棚卸資産に該当しない仮想通貨は無形資産として認識し、減損損失控除後の取得原価で測定しております。ICOにおけるPluscoinの対価として受領した無形資産の取得原価は、ICO実施日における各種の仮想通貨の主要な仮想通貨取引所の取引価格に基づいて算定しております。
無形資産に分類した仮想通貨は耐用年数を確定できないと判断しているため、償却を行っておりません。
仮想通貨については、使用期限がなく、交換手段として用いられる限り存続すると考えられるため、耐用年数を確定できないと判断しております。そのため各報告日において、帳簿価額と回収可能価額との比較により減損の兆候の有無を判断しております。なお、回収可能価額は主要な仮想通貨取引所の取引価格から処分コストを控除して算定しております。
無形資産に含まれる仮想通貨は、サービスの対価として使用されます。サービスの対価として仮想通貨を使用した場合、提供を受けたサービスの費用を対価として使用した仮想通貨の取引日における公正価値で測定するとともに、仮想通貨の帳簿価額から対価として使用した金額について認識を中止します。使用された仮想通貨の帳簿価額と仮想通貨の取引日における公正価値の差額は、その他の収益又はその他の費用として認識されます。
売却された場合には、売却された仮想通貨の帳簿価額と対価の差額をその他の収益又はその他の費用として認識しております。
当社グループのトレーディング及び広告並びにモバイルクーポンプラットフォームの整備に関する開発費用については、IAS第38号「無形資産」(以下、IAS第38号)の資産の認識基準を満たしたものについて、資産計上いたします。当第1四半期連結累計期間においては、当該資産の認識基準を満たしたものがないため、発生した期間の費用として認識しております。

収益認識(注記「3.重要な会計方針(2)新たな会計方針の採用」、注記「9.仮想通貨」)

当社の連結子会社であるMetaps Plus Inc.は2017年10月のICOにおいて仮想通貨であるPluscoin(PLC)を発行し、対価として顧客から仮想通貨であるイーサリアムを入手しております。当該ICO及びPluscoin保有者の権利の内容は、2017年9月6日にMetaps Plus Inc.より公表されている「Pluscoin(PLC) Whitepaper (以下、ホワイトペーパー)」に記載されています。当該連結子会社が存在する法域において、仮想通貨の保有者の権利と義務に関する特段の法整備はなされておりません。そのためMetaps Plus Inc.はホワイトペーパーに記載されている権利と義務に基づいてICOの会計処理を行い、Pluscoin保有者に対する義務を負債として計上しております。仮想通貨及びICOに関する法整備がなされることによりこれらの権利義務が変更された場合、将来の会計処理に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当該取引において販売されたPluscoinは、当社グループがPluscoin保有者に対して現金又はその他の金融資産を引き渡す義務を負っていないため、金融負債の定義は満たしません。

またPluscoin保有者は当社グループの残余財産に対する権利を有していないため、Pluscoinは資本性金融商品の定義を満たしません。また、ホワイトペーパー「3.2 Benefits for token holders」において、仮想通貨取引所運営会社の裁量と決定に基づいて当社グループが運営する仮想通貨取引所の運営から生じる利益の10%を限度としてPluscoin保有者に対して支払われるリワードの規定があります。当社グループは、当該リワードについて、Pluscoin保有者のPluscoin保有量に応じて一律に支払うものではなく、各Pluscoin保有者の当社グループが運営する仮想通貨取引所における取引手数料に応じて支払うこととしております。当該リワードの支払方法に関してホワイトペーパーの記載に違反するものでないと判断しております。当該リワードを受ける権利は、実質的には当社グループが運営する仮想通貨取引所の取引手数料収入の割引の性質を有するものであり、当社グループの残余財産に対する権利に実質的に該当するものではありません。

Metaps Plus Inc.は、2018年3月30日までに仮想通貨取引所を開設しない場合に、ICOでPluscoinと引き換えに受け取った対価を返還する義務を負っておりましたが、2017年11月11日に仮想通貨取引所を開設したことにより当該返還義務は消滅しております。

第三者に対して発行したPluscoinの販売対価は取引日において繰延収益として認識し、ホワイトペーパーに記載されている義務の履行に応じて関連する収益を計上します。ホワイトペーパー「3.2 Benefits for tokenholders」及び「3.3 Other token usage services」には、当社グループがPluscoin保有者に対して、ホワイトペーパーに記載されたプラットフォームを運営し、またそれを用いた取引によって課される取引手数料の割引を提供する旨が記載されておりますが、当該プラットフォームを運営し、割引を提供する期間及び割引金額について明記されておらず、プラットフォームが整備され、割引の詳細が決定されるまで受領した対価を収益として認識すべき期間について信頼性をもって見積ることができません。IAS第18号「収益」では収益を確実に測定可能になった時点で認識することを要求しているため、2017年11月30日に終了する第1四半期連結累計期間において収益を認識しておりません。ホワイトペーパーに記載されている権利と義務の解釈が将来的に変更された場合、繰延収益の会計処理に影響を及ぼす可能性があります。

まとめ

仮想通貨を保有していると監査が非常に大変です。

非上場企業でも仮想通貨を運用しようと検討している方、仮想通貨法人を設立したい方が非常に多くいらっしゃいます。メタップスさんの有価証券報告書の仮想通貨に関する記述が膨大なことからも、仮想通貨を法人が保有することは個人以上に面倒なことが多いのです。

法人のほうが節税できるという点だけではなく、多角的に仮想通貨を法人に所有させるかは検討すべきでしょう。

こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。 2018年に入り仕事始めです。 確定申告がいよいよ迫ってきました。まだ領...

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愛知県名古屋市を中心に活動している池下・覚王山の公認会計士・税理士澤田憲幸です。
創業間もないベンチャー企業やフリーランスの方のサポートに特に力をいれています。

代表プロフィール

【主な業務内容】
スタートアップ支援
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M&Aサービス
税務顧問業務
個別コンサルティング業務

◇メール、チャットワーク対応がメインの顧問契約「コスト重視プラン」始めました。



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はじめまして。愛知県名古屋市池下の公認会計士・税理士澤田憲幸です。

起業支援、事業承継対策、中小企業のM&Aや組織再編を得意としています。

会社設立直後で税金・会計・財務まで手が回らない経営者の方、今の顧問税理士にご不満のある方、事業承継対策に悩んでいる方、M&Aの話を金融機関等から提案されたが得な話か損する話か判断ができない方は一度ご相談ください。

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