こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
昨今、中小企業の後継者不足が叫ばれています。
親族に後継者がいない、従業員に後継者候補がいない、誰も会社を継いでくれる人がいないという会社が本当に増えてきています。
団塊の世代が引退し、少子高齢化社会に突入していく中で、日本の経済を支えてきた中小企業の存続が危ぶまれています。
中小企業庁を始めとし、あらゆる機関が事業承継問題に取り組み始めました。
日本公認会計士協会も事業承継支援マニュアルを公表しています。
最近では自民党が選挙の公約に、事業承継型M&Aの支援をすすめると宣言しています。
親族、従業員への事業承継が無理な場合、第三者への譲渡か清算廃業しか選択肢はありません。
第三者への譲渡(M&A)において最も用いられるスキームをご紹介します。
株式譲渡+退職金スキーム
中小企業のM&Aにおいて、株式譲渡+退職金スキームが頻繁に利用されます。
経営者がM&Aによる譲渡を選択するということは、経営の第一線からそろそろ退く必要があると感じているからです。
そこで、M&Aのタイミングで経営者へ退職金を支払い、会社の純資産を圧縮してから株式を譲渡するというのがこのスキームになります。
純資産を圧縮することで譲受企業は投下資本(株式の購入額)を抑えることができます。
メリット
・退職金の支払いと株式の譲渡なので手続きが簡便
・譲渡企業の法人格は残るため、許認可を改めて取得する必要は基本的にはありません。
・株主の手取りを最大化できる可能性が高い
個人株主の場合株式譲渡益に対する税率は20.315%で固定です。そのため譲渡価額が多額になったとしても約2割の税負担で済むことになります。
退職金の税率も所得税法上優遇されており、最高税率でも25%程度です。株式譲渡と組み合わせることで税務メリットを享受することが可能です。
留意点
・会社を丸ごと引き継ぐので、会社が保有する収益不動産や遊休資産等も引き継ぐことになります。不要な資産がある場合には株主に買い取ってもらうか、退職金の現物支給として退任する役員へ支給するケースが多いです。
・簿外の負債を引き継ぐ可能性があります。会社を丸ごと引き継ぐので、貸借対照表に計上されていない負債(訴訟債務、保証債務、簿外の従業員退職金等)も引き継いでしまうことになります。対象会社が訴訟を抱えており損害賠償請求されていないか、将来従業員へ支払う退職金はいくらあるのか等は買収前に十分検討する必要があります。
・退職金はいくらでも支給できるわけではありません。退職金の支給は株主総会の決議事項なので、株主総会で決議さえ通ればいくらでも支給が可能ではあります。しかし、税務上は支給限度額が決まっており、無制限に支払えるわけではない点に留意が必要です。税務上の支給限度額については法人税法上に算式が記載されているわけではなく、退職した役員に対して支給した退職給与の額が、役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額までであれば損金算入されるとされているのみです。
税務署から役員退職金が過大であるとかの指摘を受けないであろう範囲内で、役員退職金を設定することが重要になります。
最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率(代表取締役で3倍が限度)
の計算式で求められる金額までであれば損金計上して問題ないと言われています。
論点になりやすいポイント
- 株主の手取りを最大化するには
- 退職金をいくら支払うべきか
- 退職金の功績倍率を何倍にするか
- 代表取締役が非常勤の取締役として会社に残りたいと言ってきた。この場合、退職金を支払っても損金に計上できるか(分掌変更退職金)
- 工場が老朽化している。建て替えにいくら必要なのか。資産除去債務を計上する必要があるのか。
- 収益不動産は必要ない。どうにかして切り離してほしい。
- 法人契約の被保険者が代表取締役の生命保険をM&A後どうするのか。経営者が買い取るのか、解約するのか。
- 従業員はM&A後も継続勤務してくれるのか
- 土壌汚染がひどく近隣の住民からクレームを受けている
- 簿外負債がある
- 銀行から融資を受けるため、建設業経営審査をよく見せるために粉飾決算をしている
中小企業のM&Aにおいて論点になりやすいものは他にもたくさんありますが、主なものを列挙してみました。これらは一般的な論点にすぎません。会社の経営は経営者によって様々なため論点となる箇所も会社によって様々なのです。
まとめ
中小企業のM&Aでよく利用されるスキームは株式譲渡+退職金スキームです。
一番よく利用されるからと言って簡単な訳ではありません。
M&Aは一言でいえば会社の売買ですが、そこには会社の歴史、従業員、取引先等数多くのステークホルダーが関与しています。
株式の大部分を購入するということは、会社のステークホルダーを含めて購入することと同義です。
会社は買収して終わりではなく、買収してからがスタートです。買収してからスタートダッシュをきれるよう事前に論点を把握しておくことをお勧めします。
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起業支援、事業承継対策、中小企業のM&Aや組織再編を得意としています。
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