こんにちは。名古屋池下の公認会計士・税理士の澤田です。
最近、中小企業を大企業が買収するケースが増えてきました。
中小企業が中小企業を買収する際のスキームといえば、「株式譲渡+退職金」スキームです。
ところが、大企業が中小企業を買収することがチラホラ出てくるにつれて、株式譲渡+αなスキームが登場しています。
今日はそのスキームの1つである、「アーンアウト条項」が付されている株式譲渡に関するお話です。
税務通信#3591(2020年2月4日追記)
*税務通信にアーンアウト条項の所得区分についての記事が掲載されました。
税務通信によると、大部分のアーンアウト条項は雑所得に該当するケースが多いとのことです。
アーンアウト対価は、株式譲渡契約に基づいて支払われることが前提であり、株式の譲渡と密接な関連がある等の理由から、一時所得には該当しない→雑所得に該当するケースが多いとのこと。
それでは株式の対価にはならないのか?それについてはこのように記載してありました。
株式の譲渡時点で、権利確定(=停止条件がない)していれば、譲渡所得に該当するとのことです。アーンアウトで停止条件がないってあるのかな?という疑問はあるものの、停止条件が形式的なものにすぎず、実質的には停止条件がないものとして取り扱われた過去事例があると記載されています。
アーンアウト条項って??
そもそも、アーンアウト条項って何でしょうか?
アーンアウト条項とは、以下のような条項のことを指します。
M&A取引の実行(クロージング)後一定の期間において、買収対象とされた事業が特定の目標を達成した場合、買手企業が売手企業に対して予め合意した算定方法に基づいて買収対価の一部を支払うこととする規定である。
(山田コンサルティンググループHPより引用)
簡単に意訳すると、株式はX億円で買収します。ただし、X億円の内、Y億円については、一定の条件をクリアしたら、支払うよ、ということです。
有名なケースでは、仮想通貨取引所を運営していたコインチェックの買収にアーンアウト条項が使われています。
なぜ、アーンアウト条項が増えてきたのか?
アーンアウト条項が増えてきた要因としては、以下のケースが考えられます。
1.将来の不確実性の軽減
2.買い手企業の資金調達負担の軽減(アーンアウト条項を満たすまでは支払いが留保される)
3.売手株主へのインセンティブ
ベンチャー企業を大企業が買収するケースにアーンアウト条項が付されるケースが多いのですが、これは1~3の要因によるものです。
将来の不確実性の軽減ニーズは非常に高い
個人的に特に大きな要因となっているのが、1.将来の不確実性の軽減かと思います。
成長性だけは見込まれる企業を多額の資金で買収するにあたっては、将来の不確実性を可能な限り軽減したいはずです。一定の条件を満たさない限り、支払いを留保できるアーンアウト条項は当該リスクをヘッジするためには最適です。
3.売手株主へのインセンティブ
次に、3.売手株主へのインセンティブ効果も大きいです。
売手株主へのインセンティブといえば、表向き「ほうほう、なるほどね」と思えますが、買収企業の本音としては、
「このM&Aで大金を手にしたから、会社辞めます」
と言われるのを恐れているわけです。
ベンチャー企業の多くは、会社経営に関する知識や経験等のいわゆるノウハウが代表取締役や取締役等の経営陣に集中してしまっています。
買収企業は、その会社のノウハウが欲しいから買収するわけです。経営陣に辞められてはノウハウを得ることができません。
アーンアウト条項を設けたいという、買収側の意図としては、我々がノウハウを吸収できるまでは辞めないでね、という意味も込められているのです。
税務上の取扱いはどうなる?
アーンアウト条項について明確に定められた法令はありません。
アーンアウト条項を達成し、支払われた金銭は、株式譲渡による収入として計上すべき(つまり、株式譲渡をした時期の収入として修正申告)なのか、アーンアウト条項を達成するか否かに関わらずアーンアウト条項を満たした場合に受け取る最大額を、確定申告の対象とすべきなのか、そもそも雑所得として申告すべきなのか、といった点に疑問が生じます。
所得税法上の取扱い
所得税法36条1項がきていする、収入金額は、その年において「収入すべき金額」とされております。収入すべき金額とは、権利確定主義で考えることのようです。
停止条件が付されている場合は、当該停止条件が成就した時点で収入金額として参入するとされています。
となると、アーンアウト条項が、「停止条件」に該当するのか?という点がポイントになります。
アーンアウト条項が停止条件に該当するのであれば、株式売却時の確定申告ではアーンアウトによるインセンティブ部分は株式による収入に含める必要はないように考えられます。
アーンアウト条項は、M&A後に当該株主が一生懸命経営をした結果の報酬と考える方が、実態に馴染むように個人的には思えてします。
なお、平成29年2月2日裁決では、アーンアウト条項は当然全て満たされ、アーンアウトに係る調整金は当然支払われることが予定されていた判断されています。つまり、停止条件とは判断されず、株式を譲渡した時点でアーンアウト分も含めて確定申告をすべきだとの判断を下されています。
まとめ
アーンアウト条項は、M&Aで売主を拘束する効果があり、買手企業からすると使い勝手が悪くないものです。今後、アーンアウト条項を活用する企業はますます増えていくと思われます。
平成29年2月2日判決では、アーンアウト条項に係る金額についても「収入すべき金額」に含めるべきだとされていますが、個々の案件ごとで前提条件が異なるので留意が必要です。
対価が確実に入ってくると見込まれるからと言って、見込み段階(アーンアウト条項を達成していない)でアーンアウトの調整金額を含めて、確定申告するのは売主さんにとって負担だろうなと、、、勝手に想像してしまいました。
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